間接覆髄法

上症例は、深いむし歯を伴う下顎大臼歯の症例です。当院にて、「間接覆髄法」にて神経を残し、オールセラミックスで修復治療しました。

治癒のポイントは2点です。

・マイクロスコープにて細菌感染を徹底的に除去すること。
・治療後に再感染しないように、精度の高い修復治療(オールセラミックス)を行うこと。

 

間接覆髄法とは何か?

歯髄(=歯の神経のこと)の近くまで進行した深いむし歯で、露髄を伴わない場合(=神経にまで到達していない場合)、この間接覆髄法を用いて歯髄の保存に臨みます。

間接覆髄法には2種類あります。

シールドレストレーション(実際の症例はこちら)
・ステップワイズエキスカベーション

① シールドレストレーションとは?

再石灰化する齲蝕第2層を残存させた上で、そのほかの齲蝕を完全に除去し、薬剤を貼薬するしないの如何に関わらず、早々に最終補綴に臨む治療法。(補綴=かぶせること)



② ステップワイズエキスカベーション
とは?

日本では、従来のIPC法(暫間的間接覆髄法)と呼ばれ、歯科医師に知られている術式です。再石灰化する齲蝕第2層を残存させた上で、薬剤を貼薬し、むし歯が再石灰化することを期待する方法。数カ月後に、再度むし歯を完全に除去し、最終補綴に臨む治療法。

難しいので簡単にいうと、深いむし歯を削り取ったあと、①はすぐにかぶせて治療が終了。②は数カ月経過を観察し、再度麻酔をしてむし歯を削り取ってからかぶせて治療が終了する方法です。

そこで、当院では、ある程度の科学的信頼性のおける「齲蝕検知液」と「硬さ」をその判定基準として、取り去るべきむし歯を判定しています。
⇒この基準についてこちらをご参照下さい

 


間接覆髄による歯髄の治癒


間接覆髄では露髄はない、自覚症状がない
間接覆髄法の適応症は「症状のない歯」である
臨床症状がなく、冷温度刺激に反応し、レントゲンで根尖部に異常がない歯である。
レントゲンで深いむし歯を確認した際は、
ラバーダムを装着し、マイクロスコープで治療で徹底してむし歯を削除します。結果、間接覆髄法となる場合もあれば、直接覆髄法が必よぅとなる場合もある。

どこまでむし歯を取り去るかは こちらをクリック

自覚症状がある場合は直接覆髄となるケースが多い。成功率は高いが、短期予後は術前の状態、長期予後はマイクロリーケージが大きく影響を及ぼす。

 

間接覆髄に使用する薬剤、

水酸化カルシウム、酸化亜鉛ユージノールセメント、カルボキシレートセメント、どの薬剤が最も有効か?といった”臨床論文“は現在のところありません。むしろ、どの薬剤を用いても差を認めないという報告や、臨床的にも細菌学的にも、薬剤の種類は結果に影響を及ぼさないとする文献もあります。

徹底した細菌除去を行えば、薬剤の有無・種類に左右されることはないといえます。
当院ではマイクロスコープを用いて徹底したむし歯除去を行います。

また、術後の感染(=マイクロリーケージ)により失敗率が高まることが多いことも明らかとなっています。つまり、かぶせるものの「精度」が重要であるということになります。

水酸化カルシウムセメントはマイクロリーケージを起こしやすいため、歯を削っている量が少ない(咬合面のみの削っている)症例で用いるようにする方が良いようです。そのため、当院では、このマイクロリーケージ予防の観点から、早々に最終補綴物を製作、装着するとともに、直接覆髄・間接覆髄材共に、硬化のシャープなMTAという薬剤を用いて治療に臨みます。周囲をコンポジットレジンで被覆し、再感染のない徹底した治療法で臨んでいます。

間接覆髄の成功率に大きく影響を及ぼすと考えられているのが「マイクロリーケージ」です。そのため、リエントリーの必要で、封鎖性に疑問が残り、また治療が長期化することで患者様の来院が途切れがちとなるステップワイズエキスカベーションは当院では行っておりません。

 

間接覆髄か?直接覆髄か?

深いむし歯を治療すると、むし歯が神経に到達し、神経が露出することがあります。これを「露髄」といいます。

「露髄は治りが悪く、痛みを伴う。そのため露髄した際は、根管治療が必要であり、できれば露髄しない方が良い」

こういった考え方を持っている歯科医師は多いかと思います。この考え方から、できれば露髄をしないで治療する方法はないものか?というコンセプトのもと考えられたのが間接覆髄法といえるでしょう。そのため、あえてむし歯を残し、露髄を回避し、そのむし歯を水酸化カルシウムで滅菌消毒しようという方法論となるのです。やや無理があるかと思いますが、マイクロスコープの無かった昔ではやむなしの治療法といえます。

現在ではマイクロスコープを用いて精度の高いむし歯除去が可能です。また、たとえ露髄したとしても、「歯髄壊死はあるのか?感染はあるのか?」を実際に診て判断することができます。間接覆髄法は、「できるだけ露髄をさせずに何とか根管治療に至らないように、肉眼下で行われてきた治療」です。つまり、細菌感染の取り残しや歯髄壊死の判断は”運任せ”の感が強いといえます。そのためでしょうか、間接覆髄法の成功率にはバラツキが多く認められます。

むし歯は唾液中に存在する細菌の感染症である。これは間違いのない事実。

そのため、当院ではラバーダムを装着の上、マイクロスコープの強拡大視野でむし歯を徹底して除去し、結果露髄していれば、歯髄を観察し、壊死した歯髄を取り除くために部分断髄や根管治療を行います。

つまり、「この治療法で行く!」という考えではなく、「細菌感染を徹底的に除去することに注力」しています。その結果、間接覆髄で終わることもあれば、直接覆髄が必要となることもあります。もし歯髄が部分的に壊死していれば部分断髄となる場合もありますし、更に拡大した感染・歯髄壊死であれば根管治療の方が「その歯を残す、再治療を少なくする」ことを成功とするならば、より良い治療法かもしれない。

マイクロスコープのなかった過去の文献、過去の科学的根拠、従来の方法にこだわることなく、「感染を除去することに注力」すれば、おのずと治癒に導かれるのではないでしょうか。それにはマイクロスコープが不可欠といえるだろう。

結論として、マイクロスコープがある当院では、間接覆髄・直接覆髄の比較は無意味であると考えています。むし歯を徹底して除去することで、間接覆髄、直接覆髄、部分断髄あるいは根管治療となる可能性を患者様にご理解いただきます。徹底した歯科治療で、やり直しのない歯科治療、一生に一度の歯科治療を目指します。