神経の治療(神経ととる、根管治療)は誰しもやりたくないものです。ではどの程度むし歯が進行したら、根管治療をしなくてはいけないのでしょうか?
むし歯とは、唾液中に存在する「むし歯の細菌(バクテリア)」が、歯に感染し、歯を溶かしながら内部に感染を広げていく疾患です。つまり、「細菌(バクテリア)の感染症」です。
歯の神経の治療が必要になるのは、「感染が歯の内部深くに進行しているから」。細菌(バクテリア)の感染を除去しなくては、炎症は拡大します。そのため、感染した組織(歯やその神経)を切削除去することとなるのです。
上の図は、象牙質近くまでむし歯は進行するも、神経に穴は開いていない状態の場合です、果たして根管治療は必要でしょうか?
右の病理切片は、神経(歯髄)にまでむし歯の穴は開いていないものの、歯髄には細菌感染による炎症が認められる病理切片です。
病理切片をみると、象牙細管を伝わって細菌感染しているのが染色像よりわかります。この病理切片は、象牙質までむし歯が進行した際、見た目やレントゲン像で、むし歯が神経にまで到達していなくても、神経にまで細菌は感染している可能性があることを示しています。
歯の2層目、象牙質は上電子顕微鏡写真のように、細い管が無数に集まった、「細管構造の集合体」。その細管に入り口はエナメル質、ゴールに神経(歯髄)となっています。
この細管を「象牙細管」といいますが、バクテリアは、この細管の直径よりはるかに小さいことから、象牙質にまで至ったむし歯の場合、象牙細管内の感染を疑った上での治療が必要となるのです。
上右電子顕微鏡写真では、象牙細管よりはるかに小さいバクテリアが無数存在していることがわかります。当院ではマイクロスコープを使用して治療に臨んでいますが、流石にここまでは見えません。
レントゲンは硬いものはより白く、やわらかいものは黒く写し出されます。歯は硬いため、白く写ります。上のレントゲン像では神経(歯髄)にまでむし歯は到達していないように見えますが、上右の病理像では歯髄に感染による炎症が認められます。
神経(歯髄)に近い深いむし歯の症例では、象牙質内へ細菌が潜伏感染する可能性をこの病理切片は示唆しています。マイクロスコープで観察して、神経にまで穴が到達していなくとも、バクテリアが神経(歯髄)が感染している可能性があるといえるのです。
根管治療はできるだけ早い方がいい。感染が深く進行すると、難治性に移行してしまうのです。根管治療だけでなく、むし歯治療は早期治療のほうが予後は良好です。
予後の可能性を熟知した上で、神経を残すのか?根管治療を行うのか?を決断したいものです。
そのためには、正確な診断が重要なカギとなるでしょう。