ドックベストセメント むし歯を取り残すとは?

宮﨑歯科医院 Youtubeチャンネルドックベストセメント治療後の当院での対処治療に関する動画をyoutubeチャンネルに配信させて頂きました。
その動画へ、以下のようなご質問を頂きました。

「敢えてむし歯を残すドックベストセメント治療でむし歯が取り残してあることは、当たり前の事ではないでしょうか?」とのこと。

当院ではドックベストセメント治療や敢えてむし歯を残す治療を行っていないため、その真偽や批判、評価は致しかねますが、当院でのむし歯治療の基準について、回答させて頂きました。ご参考頂ければ幸いです。

『かじった程度の知識なので間違いでしたら申し訳ないのですが、ドックベストセメントの治療というのは、虫歯を取り切ると神経に影響があるのであえて虫歯を残してドックベストセメントを埋める治療ではないんでしょうか?であれば 虫歯が残っているというのはごく当たり前の結論のように感じるのですが。。。』

大変興味深いご質問をありがとうございます。
長文とはなりますが、回答させて頂きます。
よろしくお願い致します!

「むし歯は唾液中に存在する細菌の感染症。その細菌を取り除くのがむし歯治療のはずなのに、“むし歯を取りきると神経に影響がでる?”として“むし歯を敢えて残して”治療する・・・正しい情報が得られづらい患者様にとっては、非常に悩ましく、疑問に思わざる得ないことでしょう。

当院では、むし歯は唾液中に存在する細菌の感染症であり、その細菌を徹底的に取り除けば、たとえ露髄したとして治ることを多くの症例で拝見しております。

また、他院で神経を残す治療を行ったにも関わらず、「しみる、痛む、違和感がある」といった症状を抱え当院を受診され、ラバーダムとマイクロスコープを活用して、前医が“意図的?”に取り残した・取らずに置いておいた「むし歯」を取り除くことで、「しみる、痛む、違和感」といった症状が改善する症例を大変多く拝見しております。

では、なぜドックベストセメントはあえてむし歯を取り残し、当院ではそれをしないのか?根拠は2つです。

① リクッチ先生の見解
1965年に発表されたKakehashiらの研究


① リクッチ先生の見解

イタリア開業の歯内療法の世界的権威であるDomenico Ricucci(リクッチ)先生は、最新の歯科文献で次のように言っています。これは以前発刊されている「リクッチのエンドドンとロジー」にも記載されている内容です。

「感染(=むし歯)の原因は、細菌によるものなので、我々(=歯科医師)は、もっと細菌学や生物学を勉強すべきだと思います。① 細菌を取り除くことで、歯髄(=歯の神経)は健全になる、あるいは健全に保つことができることは周知の事実ですので、細菌がまず、どこに存在するかを特定することが重要です。ただ、②一部の細菌が存在しても組織は免疫により健全な状態を維持すること可能ですので、コロニー化する前に処置することが求められます」

のように、「細菌を取り除くことで、歯髄(歯の神経)は健全になる」と明言しています。また、②では、細菌を取り除かなくても、ヒトの免疫で抑え込み、健全な状態を維持することが出来るとも言っています。

を期待して、細菌を一時的に取り残し、神経を露出させずに(=露髄させずに)、薬剤で細菌感染を減弱させようとする方法(=これを間接覆髄法といいます)のうちのひとつが、「ドックベストセメント」でしょう。

間接覆髄法 直接覆髄法 部分断髄法 根管治療 のむし歯の進行度合いを図で説明

世界的権威のリクッチ先生は、ドックベストセメントのような、間接覆髄法を、以下のように説明しています、(簡単に書きます、原文はその後に)

「一般的に間接覆髄法(ドックベストセメントのような治療)とは、むし歯が神経に達していると想定される症例において、むし歯を全部と削り取らず、その後に神経周囲に硬い組織が形成されてから、再度むし歯を削り取る治療である」

加えて、

「このようにインレーやクラウンなどの人工歯の下に“むし歯“を永久的に残すという考えは、間違いであると私は考えます。」としています。

以下原文です。
(「一般的に間接覆髄という用語は、もともと露髄が想定される齲蝕病巣(=むし歯)において、感染象牙質の完全な切削を行わず(=むし歯を全部、削り取らず)、その後、第3象牙質が形成された頃にリエントリーを行い、残存している感染象牙質を除去する方法を表すのに使用されてきました。しかしながら、リエントリーを推奨しない者も同様に存在しました。このように修復物の下に感染象牙質(=むし歯)を永久的に残すという考えは間違いであると私は考えます。」)

しかし、Masslerは、「齲蝕病巣表層部(=むし歯の表層)には細菌感染があるが、その下層の象牙質は軟化しているものの、感染はなく、細菌は存在しない」。また総山らは、この見解を支持し、「齲蝕(=むし歯)が象牙質に達している場合、軟化(=むし歯により溶かされている部分)は深く進行して象牙質の変色をともなうが、細菌侵入は最表層に限局している」と論文で報告しています。

歯の神経(歯髄)を残す・取らない・根管治療しない 東京都内内幸町西新橋虎ノ門霞ヶ関神谷町日比谷有楽町の歯科歯医者 マイクロスコープが必要

つまり、むし歯の表層のみに細菌感染があるため、その表層のみを削り取れば良いとする考え方です。

しかし、リクッチ先生は、「露髄(=むし歯が歯の神経に達して歯の神経が露出すること)を伴わない重度齲蝕(=むし歯)の象牙質の大半に細菌で満たされた象牙細管が見られます。つまり、露髄した時のみ細菌が歯髄に侵入するのではなく、象牙細管経由で細菌は歯髄に侵入することが分かります。」と自身の臨床で得られた歯の病理組織切片で説明しています。

つまり、

① むし歯は細菌の感染症であり、細菌を取り除けば治ること。
② むし歯は表層だけ削ってもダメ。歯の2層目の象牙質内に残っていること。

この2つを科学的根拠に基づき証明しています。
むし歯は徹底的に削り取らないと治らない、取り残してはいけないということでしょう。

歯科の文献での質問に、
「リクッチ先生は感染を残すような間接覆髄は行わないのですか?」に対して、
「そうですね、今は行いません」としています。

「むし歯を意図的に取り残し、病状が安定してから再度むし歯を削り取る方法」つまり、「間接覆髄法」は、以前より為されている治療です。これに間違いはないでしょう。

しかし、意図的に取り残したうえで、インレーやクラウンをかぶせてしまう方法は、自身の免疫で抑え込める範囲内なのであれば問題は生じませんが、そこに科学的根拠は薄いと感じざる得ません。

① 上記のリクッチ先生の根拠。
1965年に発表されたKakehashiらの研究による「むし歯は細菌の感染症である」こと。https://miyazaki-dentalclinic.com/21898

この2つを根拠に、当院では「むし歯を取り残す」間接覆髄法は推奨せず、徹底的に削り取り、「歯に接着性があり、高アルカリ性で抗菌作用のあるMTA」を覆髄材として使用しています。

昔から日本では、「露髄を避けることが歯髄を守る最大の防御」と考える風潮があります。

露髄とは、むし歯が歯の神経に達して、削り取ることで神経が露出することを云います。

これは、「ラバーダムを装着しないで深いむし歯治療をすると、感染し、その後、痛みがでる」ことから、露髄を避ける傾向にあるようです。

ならばラバーダムをして治療に臨めばいいのですが、そのような教育の徹底が為されていないのが現状です。また日本保険医療制度は世界一安価で優れた医療制度です。しかしその制度にもルールがあり、ラバーダムを装着して治療することへの報酬は在りません。これもラバーダムを装着しない理由といえるでしょう。

ここで今一度頂きましたご質問を確認してみましょう。

『かじった程度の知識なので間違いでしたら申し訳ないのですが、ドックベストセメントの治療というのは、虫歯を取り切ると神経に影響があるのであえて虫歯を残してドックベストセメントを埋める治療ではないんでしょうか?であれば 虫歯が残っているというのはごく当たり前の結論のように感じるのですが。。。』

ドックベストセメント治療では「むし歯を敢えて意図的に残している」のかもしれません。

ドックベストセメント治療で歯当たり前のことであり、そこを指摘しても意味がないのかもしれません。そこには独自の理論があると思います。

でも、上記をお読みいただい上で、「取り残す治療」を受けたいでしょうか?

また、「虫歯を取り切ると神経に影響がある」のは“ラバーダムをしないでの治療”であることがお分かりいただけたかと思います。むし歯を取り残すことの方がリスクです。

上記でご説明させて頂いた治療・当院の治療方針は、先日の国際歯科学会でのリクッチ先生の見解と一致したものです。現代の歯科治療の潮流であり、スタンダードになりつつあるものではないかと考えております。

そうすると、「むし歯を残しての治療」とは何なのか?肉眼で行っていた昔ながらの治療ではないのか?と疑問に感じざる得ません。

「むし歯を敢えて残しておきました」との歯科医から説明があったとしたら、「えっ?」て思いますよね?(笑)そんな治療を受けたいとは患者様も思わないでしょう。私は嫌ですが(笑)

ドックベストセメントの治療には独自の理論があるかと思います。
私は存じ上げておりません。そのため、この回答はドックベストセメントを否定するものでも評価するものでもありません。ただ、「むし歯を取り残すのが当たり前の治療」という見解には大きな疑問を感じております。

大変意義の在るご質問をありがとうございました。

宮﨑歯科医院 Youtubeチャンネル

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