患者様のために一生懸命に根管治療に臨む歯科医師であればあるほど、ファイル(器具)の破折は起こってしまうものでしょう。
ファイルの破折は好ましい状況、喜ばれる状況ではありません。
当院では、これは、決して失敗ではなく、適切に対処すべき「治療経過」と考えています。
問題は「ファイル(器具)の破折」ではありません。
問題は「細菌感染が取り除けていないこと」です。
そのため、ファイル(器具)破折を認めた場合、まずは「除去すべきか?しなくても良いか?」を考えます。
根管治療は「歯の内部に感染した細菌を駆除する治療」です。
・根管内の細菌が除去されている
・根管内に細菌が残っていたとしても、その感染が外部にでないように根管充填されている(根管内に細菌が埋葬されている)
・ファイルが感染していない
この3点に該当していれば、たとえファイル(器具)が根管内で折れたとしても、取り除く必要はありません。
ファイルも適切に滅菌されたものや、新品を使用していれば、「根管充填材」として機能することもあるのです。
湾曲根管でファイルが破折するシチュエーションは次の通りかと思います。
1.自分が器具を折ってしまった場合
①根管治療中、感染を取り除く前に折ってしまう
1)術前に根尖病変があり、その根管治療中に湾曲根管の根尖で折れた場合はファイルを取り除く必要性が生じます。
そのため、そのような危険性のある症例では、術前にCTを撮影し、十分な準備とご説明のもとに治療に臨む必要があるでしょう。
このような症例で折れてしまった場合、折れているファイルが見えるようであれば取り除くことは可能です。
しかし、湾曲した先で折れており、マイクロスコープでも見えない場合は取り除くことは私には困難です。歯根端切除術の適応症となります。
歯根端切除術はなぜ必要か?
https://miyazaki-dentalclinic.com/20052
2)術前に根尖病変がなく、たとえば形成時の露髄からの根管治療の際にファイルが破折した場合。
→このような症例では根尖まで感染が拡がっていることは考え難いものです。
ファイル破折した部位より手前までを十分に拡大洗浄し経過を観察します。
大概が問題なく治癒するものです。
ただしマイクロスコープで見えるならば、歯根を壊さない前提で取り除いた方がいいでしょう。
上記2)には前提条件があります。以下の2点が必要不可欠です。
・ラバーダムをしていること
・折れたファイルは新品であること
②根管治療後、根管内がキレイになってから根管充填前に折ってしまった場合。
→これはファイル自体が感染源ではなければ取り除く必要はないでしょう
取り除こうとすることで歯根を壊しては意味がありません。
2.他院で器具を折ってしまった症例を診る場合
①症状も徴候もなく(痛みがなく、根尖病変も認められない)、他院にて適切な根管治療後に根管充填前に折れているのであれば、(つまり上記1.の②)取り除く必要はないでしょう。
②症状・徴候がある場合(痛みがあったり、根尖病変がある場合)
1)ファイルが原因の場合
2)ファイルが折れた先が根管治療不十分で原因の場合
3)ファイルの破折が原因ではなく、他に原因がある場合
これらを適切に見極めて根管治療に臨む必要があるでしょう。
1)2)共にファイルを取り除く必要があるでしょう。
3)は不適切部分を適切に根管治療すれば良いでしょう。
適切な根管治療とは?
ファイル破折の残存は、治療の過程であり、原因ではありません。
原因は「細菌の感染が残存していること」「それを取らないこと」です。